仕事帰りの電車の中で、ふと思うことがある。
「あ、この仕事、全然好きじゃないな」
べつに毎日がつらいわけじゃない。職場の人間関係も悪くないし、給料だってまあまあだ。でも「好きか?」と聞かれたら、正直「うーん……」と首をかしげてしまう。
そうすると次の疑問が浮かんでくる。「好きなことを仕事にしていたら、もっと充実してたのかな」と。
この問い、一度も考えたことがないという人はたぶん少ないと思う。あなたも今、なんとなくそういう気持ちがあって、ここにたどり着いたのかもしれない。この記事では、答えを決めつけずに、一緒にゆるく考えてみたい 🙂
好きなことを仕事にしたい、って誰でも思うよね
「好きなことで、生きていく」というコピーが刺さった理由
2014年、YouTubeがあるCMキャンペーンを打った。有名なYouTuberたちが登場して、「好きなことで、生きていく」というコピーを掲げたものだ。
あれ、めちゃくちゃ刺さった人が多かったと思う。わたしも当時、「あ、そういう生き方があるのか」と思った記憶がある。と同時に、「自分には無理だろうな……」という気持ちもあって、なんとも複雑な気分だった(笑)。
なぜあのコピーがあれほど響いたのか。たぶん、多くの人が「好きじゃない仕事」をしていたから、じゃないかと思う。ギャラップという調査会社の研究によると、日本において「仕事に熱意を持っている」と答えた社員はわずか6%で、世界139カ国の中でも最低水準に近い数字だという。
6%。すごい数字だと思う。残りの94%の人は、多かれ少なかれ「そこまで好きじゃない仕事」をしている、ということになる。
仕事への熱意が持てない人が多い、その背景
なぜ日本にはこんなに「熱意のない社員」が多いのだろう。
理由のひとつとして挙げられるのが、「好きなことよりも安定を」という価値観が、教育や文化の中に根強くあることだ。就活のとき、「好きなことよりも就職しやすい分野を選びなさい」と言われた人も、少なくないのではないか。
もうひとつは、「そもそも自分の好きなことが何かわからない」という問題。子ども時代から「みんなと同じ」をよしとする環境で育つと、好きなものが何かを考える習慣そのものが育ちにくい、という見方もある。
ただ、ここで少し立ち止まってみたい。「好きなことを仕事にすれば、熱意が持てるはずだ」は、本当に正しいのだろうか?
でも「好きが嫌いになる」って本当に起きるの?
旅行が好きで旅行代理店に入ったのに、という話
よく聞く話がある。旅行が大好きだった人が、就職活動で旅行代理店に就職した。大好きな旅行に関わる仕事ができると思って入ったのに、実際はパッケージツアーの書類作成と電話対応の毎日。「あれ、思ってたのと違う……」となってしまう、というケースだ。
これは、べつに旅行代理店が悪い会社だったわけじゃない。旅行という「好きなこと」と、旅行代理店で実際にやる「業務」が、かなり違うものだったというだけの話だ。
「好き」と「好きな仕事の業務」は別物という話
これはわりと本質的な問題だと思う。
料理が好きな人が飲食店に就職したとして、実際には仕込みと皿洗いと原価計算が仕事の8割を占めることもある。音楽が好きな人が音楽業界に入ったとして、自分の好きな音楽を作れるかどうかは別問題だ。
「好きなこと=業界」ではなく、「好きなこと=具体的な行為」と考えると、仕事選びの精度が少し上がるかもしれない。旅行が好きな人が、旅行のどんな瞬間が好きなのかを分解してみると、「知らない場所を一人で歩くこと」が好きだったのか、「誰かと計画を立てること」が好きだったのかで、向いている仕事はまったく変わってくる。
とはいえ、それがわかっても「好きが嫌いになる」リスクがゼロになるわけではない。仕事にすると、「今日はやめておこう」が許されなくなる。好きなことも、義務になった途端に別の顔を見せる。
好きなことを仕事にするのが怖い、その正体は何だろう
自分の価値がお金で測られる恐怖
好きなことを仕事にしたいと思いつつも、なかなか踏み出せない人が多い理由のひとつが、これじゃないかと思う。
趣味の範囲で何かをやっているうちは、うまくできなくても「まあいいか」で済む。でもそれがお金になる、つまり仕事になった瞬間に、自分の「好き」が他人に評価される対象になる。「評価されなかった=自分の好きなものを否定された」という感覚が生まれやすくなる。
それが怖い、という気持ちはすごくわかる。わたしも昔、ライターの仕事をちょっとやってみようとしたとき、「自分の書いたものが誰かに値踏みされる」ことへの恐怖が思った以上に大きくて、なかなか動けなかった時期があった。今思うと、ちょっと大げさだったと思うけど(笑)。
失うかもしれない「逃げ場」としての好きなこと
もうひとつ、意外と語られないことがある。
好きなことは、つらいときの「逃げ場」でもある。仕事でくたびれた週末に、好きなことをやってほっとする。その時間があるから、月曜日をなんとか迎えられる、という人も多いんじゃないだろうか。
もし好きなことを仕事にしたら、その逃げ場がなくなるかもしれない。「好きだったはずのことが、仕事と同じにおいを持ち始める」感覚。それを想像すると、踏み出せなくなるのはごく自然なことだと思う。
世の中の答えはだいたい二択に分かれている
こういう問いを検索すると、世の中の意見はだいたい二つに分かれていることに気づく。
「好きを仕事に」派の論理
好きなことを仕事にしている人たちの言葉を聞くと、共通することがある。「つらいときでも続けられるのは、好きだから」という点だ。
好きなことは、自然とたくさんの時間を注げる。情報も自分から集めるし、失敗しても諦めにくい。その蓄積が、じわじわと能力になっていく。そういう好循環が生まれやすいのは、たしかにあると思う。
「好きは趣味のまま」派の論理
一方、「好きなことは仕事にしないほうがいい」派の人たちも、それなりに説得力のある話をする。
「趣味は、風邪ひいて調子が悪ければやらなくていい。でも仕事は、今日はやめようが許されない」——あるクリエイターが言ったとされる言葉だ。プロの世界には、クライアントの意向も締め切りも評価もある。純粋に好きでやっていた頃とは、まったく別の種類の負荷がかかる。
どちらも正しい、という少し投げやりな結論 🤔
正直に言うと、この二択は「どちらが正しい」という問いの立て方自体が、あまり意味をなさないかもしれない。
人によって、好きなことの種類も、仕事への向き合い方も、生活の優先事項も違う。同じ「好きなことを仕事にした」でも、うまくいく人もいれば、後悔する人もいる。その違いを生む要因は、たぶんひとつじゃない。
じゃあ自分はどっちにしたいんだろう、と考えてみた
「好きの深さ」と「好きの種類」を分けて考えてみる
しばらく考えてみて、「好きなことを仕事にするかどうか」より先に、「自分の好きはどんな種類か」を知ることが大事なんじゃないかと思うようになった。
好きなことには、大雑把に言うと二種類ある気がする。
ひとつは、「その行為そのものが好き」というタイプ。ひとりで没頭してやる感覚そのものが好き、評価とか成果とか関係なくただ楽しい、という状態。これは、仕事にすると変質するリスクが高い。
もうひとつは、「それを通じて誰かに何かを届けるのが好き」というタイプ。自分が好きなことで誰かが喜んだり、役に立ったりすることに満足感がある、という状態。こっちは、仕事にしても「好き」が続きやすいかもしれない。
どちらが良い悪いではなく、自分の「好き」がどっちのタイプに近いかを知っておくだけで、判断が少し楽になる気がした。
わたしが気づいた、もうひとつの選択肢
「好きを仕事に」か「好きは趣味のまま」かの二択じゃなく、もうひとつの道がある気がする。
それは、「仕事を少しずつ好きに近づけていく」という方向だ。
今やっている仕事の中に、好きな要素を少し足せないか。得意なことと好きなことが重なる部分を探していく。転職や独立じゃなくても、今いる場所で試せることがあるかもしれない。
これはあくまでわたしの個人的な感覚で、全員に当てはまるとは思っていない。でも、「完全に好きを仕事にする」か「諦める」かの二択しかない、と思い込むよりは、選択肢が広がる気がした。
好きなことを仕事にするかどうかより、大事な問いがあるかもしれない
「好き」の正体を知っているか
ここまで書いてきて、一番大事なのは「好きを仕事にするかどうか」よりも前の話かもしれないと思い始めている。
そもそも、自分の「好き」の正体をちゃんと知っているか、という問い。
「旅行が好き」なのか「計画を立てるのが好き」なのか、「料理が好き」なのか「人に食べさせるのが好き」なのか——そこを分解せずに、表面だけで「好きなことを仕事に」と動いてしまうと、旅行代理店の例のようにミスマッチが起きやすい。
好きなことの正体を知る作業は、なかなか地味で時間もかかる。でもその作業をすっ飛ばして「好きなことを仕事に!」と勢いで動くと、後から「なんか違う……」になりやすいと思う。少し遠回りに見えても、自分の「好き」をじっくり観察してみることが、意外と近道なのかもしれない ✍️
「好きなことを仕事にする」という問いに、正解はたぶんない。あるとしたら、それは「あなた自身の答え」だけだ。
ちょっと聞いてみてもいいですか。あなたの「好きなこと」って、誰かに見せたいですか?それとも、ひとりで抱えていたいですか?
その感覚が、ひとつのヒントになるかもしれない。


コメント